気候変動による自然災害の増加、先行き不明な国際情勢、日本経済の低迷や円安の進行などの社会変化を受け、いま、食糧自給率の向上や、輸入の肥料や農薬に頼らない食料生産が、課題としてさらに顕在化してきています。
日高市は、都市と農村の中間的な色あいを持つまちであり、埼玉県の雛形のように言われることもある小さな市です。そんな日高市だからこそ、危機に強く環境にやさしい、これからの時代の豊かな地域循環共生のモデルを率先して実現し、社会に示していける可能性に満ちているまちであると考えております。
本日は、それに向かうための切り口の一つとして、学校給食を起点にした農業振興をテーマに質問いたします。
いま、地域における農業振興策として、学校給食との連携が全国的に注目されおり、国も積極的な支援を始めています。
先行事例としては、愛媛県今治市、そして千葉県いすみ市などが有名です。市が、市内の農家やJAなどの関係団体と連携して、学校給食での買い取りを保障することで、農家の方々は安心して作付けができる、また、市内の子ども達に食べてもらえるということがやりがいにもつながる、そしてまた、子ども達の食育や環境保全につなげていく、という地域ぐるみ取り組みで、書籍や映画にもなり、全国に同様の事例が生まれ始めています。
安心安全な給食の提供と、持続可能な農業の推進について、市の展望と今後の具体的な取組をお伺します。
1.学校給食についてはこちら↓
2.農業振興について
日高市の農業の現状を見ると、農業従事者の数は年々減少傾向にあります。2000年で1,257人、2020年が663人と、20年間でほぼ半数にまで減少しています。経営耕地面積も、2000年で758ha、2020年で365haと、やはり20年間で半分以下に減少しています。
この背景には、
農業が労働量に比して収益をあげにくい、自然を相手にするために収入が安定しにくいなどの理由から、後継者が見つかりづらいこと、
また、新規就農するには、ほぼ無収入で3年間研修を受ける必要があり、さらには条件に見合う農地がなかなか見つからないなど、新規就農のハードルが高いこと、
そして、やっと新規就農できても生計が立つだけの売上が上がるまでに期間を要し、その間に断念するケースも少なくないこと、
などが挙げられます。
これらは完全に仕組みの問題であり、日本の食料生産における重要な行政課題と言えます。
基礎自治体でできることは限られているという見方もあるかもしれません。しかし一方で、地域でしかできないことも少なくないと考えます。
日高市として、今後どのような施策を講じうるかを伺います。
1番.地域の農業振興と地産地消について
(1)現状と課題は。
農業は、市民の健康と暮らしを守る生命産業であり、適正な食品供給をしていく上で不可欠なものであると考えております。市内では、露地野菜栽培を中心とする農業者が多く、若者から高齢者まで幅広い世代の方が農業に従事されております。しかしながら、後継者、新規就農者など新たな担い手が不足していることや農業者の高齢化により、平均年齢が上昇している状況であり、議員ご指摘のように農業従事者数は、この20年間で半数近く減少しております。そして、担い手不足や農業者の高齢化により、耕作放棄となりうる農地も増加傾向にあり、年々、遊休農地が増加している状況です。
昨今の外国からの輸入食品における食の安全性等の問題などにより、国内の農産物の自給率が注目され、農作物への関心が高まると同時に、食の安全安心と安全供給が今まで以上に望まれるようになり、農業に対する行政の支援にも関心が高まっているような状況です。
本市におきましても、農業に従事することは、収穫時に大きな達成感を味わえること、食を通じて、人に貢献しているという実感を得やすいことなど、その魅力を広く周知していく必要があると考えております。
(2)農業従事者を増やすための取組は。
市では、新規に就農を希望する方に対しまして、就農までの過程や市内で生産されている農産物や農地の状況を説明するなど、就農に関する相談を随時行っております。
併せまして、認定された新規就農者に対しましては、農業次世代人材投資資金補助金を活用して農業経営に必要となる資金を支援しております。
新規就農希望者を増やしていくために、就農相談や、新規就農者への資金的な支援を行っているとのご答弁でした。とても大切なことと思いますが、その手前として、就農を考える人を増やすための施策、農業の関係人口を増やしていく施策も必要と考えます。
いま、特にこのコロナ禍で、農業体験のニーズが増えています。
コミュニティ農園の活動が活発化していたりですとか、農家の手伝いをする「援農」、農業ボランティアといった活動に人気が出ている様です。実際、市内には、毎回40-50人の参加者が市内外から集まる援農イベントもあります。
こういった機会がきっかけとなって、新規就農を志し、移住する人も一定数いる様です。
このように、市内外の人が農に触れる機会を創出していくことも、日高市として取り組んでいくことは考えられますでしょうか。
市では、野菜作りなど農業に触れていただけるよう、市内に市民農園を3箇所120区画設置しており、ほぼ全ての区画をご利用していただいている状況です。利用者からは、身近で野菜が作れて嬉しいという声があり、好評をいただいております。
議員ご指摘のように、市内で、農業体験や収穫体験を行う援農イベント等を実施する団体の活動についても、市では存じているところでございます。
様々な方策で、農業に触れていただける機会を創出することは、農業を身近に感じていただくため、重要なことであると考えておりますので、このような活動への支援に努めてまいります。
(3)市内給食での使用に向けた取組は。
こちらは先ほどの学校給食に関する質問と同様にはなりますが、農業政策の観点から伺いたいと思います。
現在、学校給食センターで使用する材料につきましては、身近な場所から新鮮な農産物を入手でき、旬の野菜を美味しく食べることができる地元の農産物を活用するよう努めております。
農産物の種類により、品質の不安定、必要量の安定供給といった課題がございますが、生産者や仕入先との調整を行いながら、継続していけるよう努めてまいります。
(1)のご答弁で、農業振興の課題は、「食を通じて、人に貢献しているという実感を得やすいことなど、その魅力を広く周知していく」とのことでしたが、まさに、給食での活用はそういった魅力に直結するものと思います。
さらに本質問へのご答弁では、「農産物の種類により、品質の不安定、必要量の安定供給といった課題がある中、生産者や仕入先との調整を行っていく」とのことでしたが、まさにその調整が重要かと思います。
現状の学校給食の枠組みでは、発注のタイミングや納品条件など、生産者にとって対応しづらい状況もあると思います。
今後、給食における地域農産物の利用を促進していくには、学校給食センターやJAなどの給食関連機関と農政とが連携しながら、生産者の具体的なニーズを把握・調査して、生産者にとってメリットのあるスキームを、一緒に考えていく必要があると考えますが、市としてそのような連携はされていかれますでしょうか。
地元の農産物を学校給食で利用していくためには、生産者の協力が必要不可欠でございます。また、生産者にとりましては、学校給食への出荷が一つの販路にもなります。
今後、生産者における出荷と学校給食センターでの受け入れの双方の体制づくりについて、検討してまいりたいと考えております。
2番.持続可能な農業の推進について
これまで「オーガニック」というと、健康志向の強い一部の層だけの関心領域といった側面もあったように思います。しかし、持続可能な食料生産という観点において、冒頭に述べたような社会変化を受け、いま、主要品目における有機農業技術の確立と普及は、もはや国家課題となっています。
世界の状況に比して、日本の有機農地面積は未だとても少ない状況です。耕地面積に対する有機農業取組面積の割合は、2017年の統計では、イタリア15.4%、スペイン8.9%、ドイツ8.2%、イギリス2.9%、日本はというと0.2%です。
この状況に対し、令和3年5月に農林水産省により発出された「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに、国内の耕地面積における有機農業の取組面積の割合を25%するという目標が示されました。
しかしながら、慣行農業を営む農家の方々にとって、有機農業への転換は、かかる手間の割に価格が見合わない等の大きなリスクがあり、現実問題、簡単にできるものではありません。
私たちの将来的な食料確保のため、自然環境保全のために、有機農業に転換してほしいと考えるのであれば、彼らが安心して有機農業に取り組めるよう、地域をあげて支援していく必要があります。
そこで農林水産省では、「オーガニックビレッジ」という制度をつくり支援を始めています。このオーガニックビレッジとは、有機農業の生産から消費までを、一貫して、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取組を進める市町村を言います。生産、加工、流通、消費の各段階に対して多様な交付金が示されており、2025年までに全国の100市町村の宣言を目指すとされています。
先進事例を見ると、やはり注目されているのが学校給食を通じた取組です。
オーガニックビレッジを宣言している市町村は、埼玉県ではまだ小川町しかありません。
日高市には、全国的に見ても先駆けと胸を張って言えるような、オーガニック食品の商社やオーガニックの種屋があります。また今マスコミでも大きく注目されている自然栽培農家もあり、有機栽培・自然栽培の団体「日高有自会」も設立されました。
有機農産物の市内生産量も高く、例えば市内に有機農業に取り組む法人が一社ありますが、彼らの年間の野菜の生産量をお聞きすると、9種類でおよそ12万キログラムとのことです。これは、日高市の学校給食で使用される野菜の量、約5万8千キログラムの倍量に及びます。そんな市内の有機野菜を学校給食に一部取り入れることで、「地産地消のオーガニック給食」をうたうことができます。材料費の調達にかかる費用は交付金を活用できる様です。材料費高騰の対策にもなります。
これだけのオーガニックのプレイヤーが揃っているまちは、県内、いや全国探してもそうそう無いのではないでしょうか。日高市は、小川町についでオーガニックビレッジを宣言するだけの実力が既に、十分にあるまちと言えます。
国が有機農業に向けて大きく舵を切っている今、日高市が先駆けて取り組むことで、まちのブランディングにもつながり、移住定住にもつながります。「清流文化都市」にふさわしい戦略と言えるのではないでしょうか。
以上の観点から、まちぐるみの有機農業の推進について、日高市の展望をお伺いします。
(1)市内の有機農家の取組や有機農産物の生産量を把握しているか。
市内で有機農業に取組んでいる農家につきましては、個人で3件、法人で1件を把握しております。個人の生産者につきましては、露地野菜を中心とした栽培に取組まれており、直売所等に出荷されております。法人につきましても露地野菜が中心となっており、スーパーマーケットなどに出荷しております。なお、農産物の生産量につきましては把握しておりません。
(2)有機農業を支援、推進することについての考えは。
議員のご指摘のとおり、国では食料、農林水産業の生産力向上と持続性の両立するための取組として「みどりの食料システム戦略」が策定されております。
市では、環境にやさしい農業として、農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意するとともに、化学肥料及び農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した有機農業に取組む農業者に対しまして、環境保全型農業直接支払交付金制度を活用し、支援しております。
近年は特に、消費者の有機農業への関心も高く、高い付加価値をつけることが可能であると思われます。現状では、有機農業が農地に占める比率が低く、早く取り組むほど、新たな消費者を取り込むチャンスが大きいと考えております。
(3)「オーガニックビレッジ宣言」に向けた考えは。
オーガニック栽培は、自然の循環機能が高められ、地域の生態系を守れるなどの手法の一つとされており、オーガニックビレッジの創出は、有機野菜の普及と有機農業拡大に有用であると考えます。そして、農業生産に由来する環境負荷を軽減できることから有機農業への転換が推進されていることに加えて、現在、物価高騰の影響から化学肥料価格においても高騰していることから、有機質肥料への転換も推進されております。
その一方で、有機農業における生産者の負担として、経営地の管理に手間がかることや生産に係る経費が割高となることなど、生産から収穫までの労力がかかること、また、消費者には、経営地の景観や生産に係る生活環境への影響に対する理解、虫食いの野菜や形が不ぞろいな野菜であっても有機農産物を選択されることなど、生産から消費されていく循環を構築していく必要があると考えております。
現在のところ市では、オーガニックビレッジ宣言につきましては予定しておりませんが、本市の農業者と流通業者、そして、消費者である生活者が出会い、繋がる機会の場を作れるよう進めてまいります。
オーガニックビレッジ宣言については今のところ予定はしていないが、「農業者と流通業者、生活者が出会い、繋がる機会の場」を作っていかれるとのご答弁でした。
まずは、本日申し上げたようなオーガニックに関わる素晴らしいプレイヤーが市内にたくさんいらっしゃるという事実を、そのような場で見えるかたちにすることはとても意味のある一歩であるように思います。
具体的にはどのような機会を考えておられますでしょうか。
現在、市役所で行われているマルシェや農業イベントを活用し、消費者の意向を把握していくとともに、その意向を農業者等へ繋げられるよう努めてまいります。
併せまして、オーガニック野菜に親しみを感じてもらえるよう、販売の機会の提供を検討してまいります。